プロローグ01


 高校に進学して三週間。

 引越しという一大契機をもって始まった俺の新年度は、特に大きな波乱などなく高校の中の一個性に埋もれ平凡なる学生生活として流れていた。

 俺の転がり込んだ従兄弟の銀一兄は、確かに超有名人ではあるが、その血族だからって俺自身何か秀でていることなんて無い。

 三週間も生活していれば周囲もそう認識して、騒がれること自体がなくなっていく。

 まぁ俺だって虎の威をかる狐という状態は甚だ不本意であったので、良い意味で静かになったというべきだろう。

 なんてことを徒然考えながら、今日も高校へと続く道へ自転車を転がす。

 っと、自己紹介が遅れた。

 俺の名前は有川竜也。

 三週間前に高校へと進学したばかりのヒヨッ子で、その際に学校から遠いというので古臭いしきたりの多い実家を飛び出し、従兄弟の家に厄介になってる。

 なにせ我が実家は難儀なことに華族の傍流に当たるらしく、決まりごとやら面子やらで息が詰まりそうだったのだ。

 今ではそういうことも全くなく、極々普通の高校生生活を謳歌している。

「よぅ、おはようさん」

 学校が見えてきたあたりで見慣れた顔を見つけたので、速度を落とすと既に気づいていたのか向こうさんのほうから先に挨拶をしてきた。

「はよ。今日も早いな、榊原。いい加減なにか部活でも始めたらどうだ」

 それに対して俺も自転車を降りて、挨拶を返す。

 こいつは高校で最初に俺に声をかけてきたのだが、その動機が俺が有名人の親戚だからとあっけらかんと暴露したのだ。

 それ以降はなんとなく出来上がってしまった奇妙な友達関係で、今日まで続いている。

「はっはっは。部活なんぞ始めたら好きなことが出来なくなるからな。俺は運動神経抜群の謎の便利屋で通させてもらうさ」

 なんともはや、やれやれとしか言えないような笑い声をあげる友人を湿った視線で見やる。

 榊原亮。本人曰く、面白味もなんにもない名前とのことだが、俺的評価で言わせてもらうのならば、充分に常識から外れている。

 運動神経抜群のくせしてどこの部活に所属するでもなく、バイトの求人(学校不認可)とナンパのための駅前散策を第一としているやつだ。

 そのせいか人脈は恐ろしく広く、そしてその広い人脈に俺(厳密には銀兄だろけど)が入っているのは間違いなかった。

 が、そんな正体不明性のせいかこいつは不思議と女子に人気がない。

 顔立ちだって悪くないし、若干非常識な性格をのぞけばそこそこのやつだと思うのだがね。

「そりゃあれだ。オレがよく駅前でナンパしてるって声高に言ってるからだろう」

「分かってるなら直せ。そんなんだといつまでたっても独り身だぞ」

「それならそれでかまわん」

 どっちだよ。

 癖になりつつあるツッコミをのみ込んで、進行方向に見えてきた学舎を眩しそうにみやってみる。

 さてさて、今日も代わり映えしない一日がはじまるっと。



 入学してからそろそろ一月が過ぎようとしている今日この頃、部活に熱心に励もうとしている連中やらはたくさんの先輩ができているだろうが、あいにく入部が義務付けられていないせいで自動的に作られる帰宅部所属の俺には顔見知りの先輩はできていない。

 いや、現在自宅にしているところの家主はこの高校出身とのことだが、それはOBというものだし。

 要するに何が言いたいかというと、俺の対人関係の構図はとにかく狭いってことだ。

 まぁまだ四月だし、女子とは積極的に関わろうとも思わん。

 思い立ったが吉日は榊原に任せるとして、俺は石橋を叩かせてもらう。

 俺の周辺は奇人変人秀才天才で埋まってるんだ。

 俺一人ぐらいアベレージでないと釣り合いが取れないというものだ。

 とりとめのない思考をしながら、学舎から自宅へ続く道を自転車で突っ走る。

 盆地に位置する和が高校は、行きは緩やかな下り坂だが、帰りは緩やかな上り坂だ。

 一日が終わろうとしている弛緩した状態の体には若干きつめだが、個人的には良い切り替えになると思う「ようにしている」。

 ……そうとでも思わなければやってられん、とはこれっぽっちも思っていない。ホントだ。

 学舎を出て東へ一直線。駅前からは離れていくので、必然的に交通量が減っていく。と同時に視界に入ってくる店舗は徐々に小さくなっていく。

 学舎周辺は比較的大きなCDショップや喫茶店もあるのだが、全国的に有名なショッピングセンター前の大きな交差点を境に住宅街に入っていく形になる。

 地方都市と言っても差し支えないこの街は、人口も多く大きな集合住宅街があちこちに点在している。

 それに準拠するように高等学校も俺の通うところを含めて三つほどあるのだが、二つはそれぞれ女子高、男子高であり、学区内にある共学は何気に我が学舎だけである。

 二つ目の大きな交差点(といっても一つ目とは比較にならないぐらい小さいが)を左折する。

 あとは細かく右左折を繰り返し、住宅街の外れに位置する比較的大きな家屋の前で自転車を止める。

 インターフォンはあるが、ボタンを押す必要はない。

 便宜上は自宅となっているところに入るのに、そんなものは必要ないというのもあるが、実際問題本当に必要ないのだ。

「ただいま」

『おっかえりー。相変わらず早いねえ。高校生なんだから道草ぐらいくえばいいのに』

 挨拶をすると、途端に帰ってくる明瞭な女性の声。が、辺りを見回してみても誰もいない。

 当然だ。今応対したのはこの家の管理システムであり、言い換えればこの家そのものであるからだ。

「んなこといっても、俺はまだここになれてないんですから。簡単に道草なんか食えるもんじゃないですよ」

『まー、いいけどね。好奇心が動くうちに散策した方がいいよ。そのうち惰性で面倒くさくなるから』

 そんなことを言い終わるか否かで、目の前の柵がスライドする。

 見える自宅はたいして目立ちもしない一戸建てなのだが、それ自体が大きなカモフラージュといえる異空間である。

 まぁ俺はいい加減このギャップには慣れてるが。

「あら竜也さん、お帰りなさい」

 こんな状況を同級生に見られたら殺されるかもしれん。

 まいどまいど家に帰りつく度に展開される光景に、若干の暗い予想を馳せつつも俺は目の前のメイドさんに挨拶を返す。

「ただいまっす、シェインさん」

 水色のセミロングヘアーをのせた優しい表情に微笑みを浮かべ、シェインさんはよくできました、とばかりに頷く。

 すでに定型化したやり取りなのだが、非常に面映ゆい。


  目の前で笑うシェインさんは、それこそ絶世といっても過言ではない美人メイドさんであり、自らを下におき人を立てる物腰は完璧ともいえる。

 そんな彼女を目の前にして、たかが一介の高校生があがるなと言う方が無茶なのだ。というかこんなやりとりになれてしまえば、俺の人生は本当につまらなくなってしまうだろう。

「今日も早く帰られたみたいですし、夕御飯はいつもどおり七時にしますね。マスターならば相変わらず地下にいますから」

 柔らかい微笑みのまま、そうとだけいって軽く会釈し去っていくシェインさんに激しく癒されながら、俺は自室へと足を向ける。

 基本物置になっている二階への階段を通りすぎたところに、俺の自室として宛がわれた部屋がある。

 実家からあまり物を持ってこなかったため、そこそこ広い部屋は僅かに散らかってはいるものの殺風景であり、まだこの家での生活が短いと俺に具体的に告げているようであった。

 が、別段ないがしろにされているわけではないし、家具も娯楽品も増やさない俺自身が部屋を殺風景にしているのも事実であり、そもそも殆んど荷物置きと寝に帰ってるだけ部屋にしている自分が悪い。

 部屋においてある机に鞄を投げおき、ハンガーに上着を掛けて(放っておくとシェインさんがかけていくのだ)俺は部屋を出る。

 そのまま右へと玄関から逆方向へ直進していくと、そこには下り階段がある。

 梯子でも何でもない、普通の下り階段であるが、この階段こそこの家の中枢へと繋がる重要な階段なのだ。

 まぁそんなに大袈裟なものでもなんでもないので、普段通り俺は地下へと降りていく。

 ほどなくして俺の目の前に現れるのは、鉄製の頑丈そうな扉である。

 いかにも重そうなその扉にはただ一言、研究室とだけ書かれている。

 しかし重そうな扉ではあるのだが、その実半自動ドアであり、許可さえとれれば簡単に空いてくれるのだ。

「アリスさん」

『はいはーい』

 虚空へと向けたその言葉に呼応し、目の前に突如セーラー服の女の子が現れる。

 といってもこれまた驚くようなことではない。

 何故ならばアリスさんは立体映像であり、この家の何処にでも瞬時に現れることができるのだ。アリスさんとしては、別に映像なんて出す必要は全くないのだが、そこはそれ、見えるインターフェースを介することは人間と意思疏通する際に良いこと、なのだそうだ。

『銀一ならいつもどおりプログラミングとにらめっこしてるよ。竜也はいつもどおり駄弁りに来たのかな?』

 にこにこと底抜けな笑顔を向ける立体映像に、凝り性だよなぁなどと益体のない思考をする。

「ええ、お願いします」

『了解了解。ちょっぱやで開けてあげるのさ』

 最初こそはこの人を置いていくハイテンションにおいてけぼりをくらうような気分でいたのだが、やはり人間、邪気の無い笑顔には弱いのか、今では随分と話しやすく感じるようになっている。まぁそれこそこの人間にしか見えない凝ったインターフェースの面目躍如といったところだろうか。

 …いまいち釈然としないものを感じつつも、開いていく目の前の扉に意識を向け直す。

 僅かな間に開ききった扉の中には、こちらに背を向けてなにやら作業中の白衣の人物と、目を閉じたまま椅子に腰かける長い藍色の髪をした人物がいた。

「よう、おかえり」

 それを確認するより早く、白衣の人物がこちらに振り向かずに挨拶をする。

 枯龍銀一。現在のAF業界の先頭に立つ、若き天才であり、更には俺の従兄弟でもある。

 物心ついたときは、なんだって自分の周囲には凄いのしかいないかね、と思った最筆頭である。

「ただいま。セツナさんはメンテナンス?」

 まぁ今では自分の感情に折り合いもついている。いつまでも与えられてしまった境遇にうじうじ愚痴ってはいられないのだ。

「いんや。ちょっと調べものだ。一応感覚はこっちに残してあるみたいだから挨拶は通じるぞ」

「あ、セツナさんもただいま」

 銀兄のセリフにあわてて俺はセツナさんにも挨拶する。

 目を閉じ、何の表情も浮かんでいないその様は、まるで操り糸を外されてしまった人形のような感覚を受けるが、そうではないことを示すようにゆるゆるとセツナさんは頷いた。

 AF。ここ十年足らずで急速な進歩を遂げた人形機械の呼称である。

 一時期は夢物語みたいな扱いを受けていたが、わずかな間に世界の常識として定着してしまった。

 その生みの親と言われるのが、目の前の銀兄のお祖父さんである枯龍零治郎氏だ。

 人類が生んだ史上最凶の天災科学者(誤字に非ず)と評される爺様は、世にAFの基礎理論を発表し、世界中を驚愕に叩き込んだらしい。

 そしてその基礎理論の集大成といえる一体の試作型AFを孫に託して、本人は隠遁。

 当時はそれがとんでもないことだと知らなかったその孫――銀兄はその理論を自前で補強し、その試作型AFを完成させ発表してしまう。

 これが五年前の出来事であり、銀兄、二十歳の大躍進でもある。

 そして、その世界初とされる完全自律人型AFこそ、今俺の前にいるSE2-type7αという本名(?)をもつセツナさんである。

 その後銀兄はセツナさんをベースにシェインさんともう一体……いや、一人のAFを作り上げている。

 オリジナルであるセツナさんを半分は、つまり基礎を作ったのが零治郎氏であるので、銀兄は男性型のAFが作れないとか何とか。

 作れても野郎を作るのが何が楽しいなどと豪語している辺りは、銀兄もしっかり天災科学者の血を引いているのではとうかがわせる。

 まぁ銀兄も自称で言ってるが、元々銀兄はプラグラミングの方が得意なのだ。

 そんな銀兄は世間で認知されているほど技術屋としての能力が高いわけでもなく、全くの無からAFの素体を作り上げるのは難しいとのことだ。

 そういう意味では、完全なる銀兄としての作品は仮想空間にしか身体を持たないアリスさんだけということになる。

 ……まぁ定期メンテナンスをやってたり、二人もコピーというか量産している辺りただ面倒くさいだけなのじゃないか、と俺は睨んでたりするのだが。

 俺に割り振られている第三サブPCを弄りながら、データ画面と睨めっこをする銀兄を見やる。

 枯龍家、有川家を含めてその他の血筋を手繰ってみてもまともな人間のほうが少ないという驚愕の真実が出てくるのだが、銀兄はその中でも珍しいまともに属する人間である。

 というかうちの人間も姉はある意味非常識だし、もう一人の従兄弟兄弟も非常識であるし。

「………」

 何故だろうか。非常に悲しくなってきた。

 というか俺にもその血が流れているということを考えると軽く鬱にもなってくる。

 なんだって系図を思い浮かべて悲しくならなきゃならんのだ。

「なんだおい。人の顔見て暗い顔して」

 と思ったらいつの間にやら銀兄がこっちを向いてた。

 誤魔化すように笑って視線を切り替えると、こちらも終わったのかセツナさんがジーっとこっちを見てきていた。

 ……セツナさんの表情は殆ど変わらないので俺如きでは何を考えているのかさっぱり分からない。

 しかしまぁ人の顔見て鬱に入ってたのは事実であり俺としてはとにかく笑って誤魔化す以外に無かったのである。

 ……俺は馬鹿か?

 酷く落ち込んだ気配を誤魔化すために、しばしアリスさんと一緒にコンピュータゲームで対戦する。

 普通に考えたらコンピュータそのものであるアリスさんにゲームで勝つことなどできそうもないのだが、そこはそれ、暇潰しとしての意味合いが大きいのだからなんの問題もない。

 むしろ負けるとわかっているからこそ、挑む価値がある。

『はい、私の勝ちー。正直すごろくとかの運が絡んだゲームにしたほうがよくないかな』

 ………うん、意味はあるよな。こう、殺られるまでの時間とかさ。

『しかしまぁ今回は瞬殺だったねぇ。悪いけどもうちょっと上達しないと私の相手はしばらく無理かな?』

 意味はある………。きっと。





 シェインさんお手製の美味い晩飯の後は、研究室の隣にある少し広目の部屋で腹ごなしをする。

「………」

 自宅から持ってきた木刀(実家の倉庫にあったのをちょっぱってきた)を、特に型もなく素振りする。

「………」

 別段目標があっての行為ではない。体を動かせばよく眠れると親父に言われてから始めた一つの日課みたいなものだ。

「………」

 ゆえにいつもは無心で木刀を振るうのだが………。

「………」

 部屋の隅から俺のことをジーッと見つめる人影が一つ。

 しかもその表情が無表情とかそういうものならばまだなんとか許せるが………こいつの浮かべている表情は明らかに俺をバカにしている。

「言いたいことがあるならはっきり言ったらどうなんだよ!」

 さすがに我慢ができなくなり、そっちを睨み付けて声をあげる。が、そいつはまさにそれを待っていた、とばかりに一言いいやがった。

「下手くそ」

 うん、俺怒っていいよな?

「手本なしにここまで独力でやってきてるんだからしょうがねーだろうが!」

「それこそ愚行。ただの馬鹿」

 こ、こいつは………!

 怒りのままに飛びかかってもいいだろうが、それこそこいつの思うつぼである。

 先制攻撃は俺がしたから自分は専守防衛した。その際にオーバーキルになってしまったのは事故、とかいって俺をぼこぼこにしようとしているに決まっている。

「スレイア、俺、お前になんかしたか?」

 目の前でニヨニヨ笑いながら暴言を吐きまくるセツナさんの妹に、俺は頭を抱えたいのを我慢してそういう。

「なにもしてない」

 だろう? だから何故俺を付け狙う?

「退屈しのぎ」

「そんな理由かー!!」

 さすがに俺も吼える。

 まぁ隣の研究室は防音だし、ここは地下だから近所迷惑にもならないのが唯一の救いか。

 って、そうじゃないだろ、俺。

 大きくため息をついて、俺はスレイアから離れて再び素振りを始める。

 身体を動かすことこそが目的なんだから、下手といわれるのは当然のことだと割りきる。

 ………で、なんでお前はそんなにつまらなさそうな顔をしやがる。

「作戦失敗。次はもっと怒らせないと駄目」

 をい………。

「お前いくらなんでも性格悪いぞ!? セツナさんに相変わらず勝てないからって人に当たるな!」

「違う」

 ん、なんだよ、何が違うってんだよ?

「竜也をいじるのは日課。その日のうっぷんばらしとは別」

「なお悪いわ!」




「だうー………」

 肉体的と精神的に疲れはててから、俺はリビングのソファーに身体を預ける。

 風呂から出たばかりなので、髪が若干湿っぽいがしっかり拭く気にもなれない。

 寝る前のこの時間には、一日の疲れがたまりこみ毎度毎度だるくなってしまう。

 しかしまぁ下手に余力を残して一日を終わらせるよりかは、疲れはてて終わらせる方がいくらか有意義であったと思える。

 遠くに何かの音が聞こえる程度の静寂の中、俺は疲れからか無意識的に目を閉じ………。

「―そこでの就寝は推奨しかねます」

 氷のようなクールボイスで再び現世に舞い戻ることとなる。

 見ると、部屋の入り口に立つ藍色の人影が一つ。

「珍しいですね。こんな時間にセツナさんがここに来るなんて」

 一瞬面食らってしまうが、すぐに立ち直って素直な感想を口にする。

 セツナさんは基本的に銀兄の近くに佇んでおり、こっちに越してきてからの三週間の間も、用事がなければ必ず銀兄のそばにいた。

「―今日の貴方の疲労度から見て、自室に戻らずに熟睡してしまう確率は非常に高かったので、警告のために上がってきました」

「あなたは予言者か何かですか」

 思っても見なかった答えを返され、俺は後頭部に大きな汗を浮かべる。

 この家において、セツナさんに逆らう人物は存在しない。

 何を言われても眉一つ動かさず反論も何もしなさそうなのだが、正直底が知れないのだ。

 あのスレイアでさえ、セツナさんに正面から逆らうことはしないぐらいだ。

 銀兄? セツナさんは銀兄の言うことには逆らわないから、対象とすること自体が間違ってる。

「―時期的なものから類推しただけです。―私のシステムに、未来予知に該当するものは存在しません」

 そういうことができる時点ですごいんです。

 反射的に突っ込むがセツナさんはじーっと俺を見るだけだ。

 無表情でじっと見てくるだけの美少女が目の前にいることがこんなに居心地が悪いとは思わなかった。

 ………ええと。

「―今日の活動はここまでにしておくことを強く推奨します」

 俺が途方にくれかけていると、黙ってたセツナさんが口を開いた。

 ようは早く寝ろってことっすか?

「―口語的表現を用いればそうとも言えます」

 いやでもさすがにまだ十時ですし、高校生が寝るにはまだ若干早いように………、

「―………」

 わかりました。寝ます、寝ますから。




 自室のベッドに身を沈めると、途端に強烈な睡魔が襲ってきた。

 高校が始まって三週間、知らず知らずに疲れが溜まってたようだ。

 そしてそれに気付いたセツナさんに改めて驚嘆を覚える。

 そういえば銀兄も身体を気遣ってくるセツナさんには勝てないって言ってたなぁ。なんだ、この家でセツナさんに逆らえる人物って存在しないんじゃないか。

 そんなことを考えているうちに、俺の意識は夢の彼方へと飛んでいく。

 やれやれ、今日も一日ごくろうさん。


 

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